安全衛生管理者とは?具体的な業務内容や安全活動の進め方を解説!
会社で事故が起こった場合、または事故を未然に防ぎたい場合は、安全衛生管理者の必要性を考えましょう。この記事では、安全衛生管理者の業務内容や具体的な安全衛生管理について紹介しています。従業員・労働者の安全を第一に優先した環境を目指しましょう。
労働災害は全国で起こっており、年間50万人もの人が被災されています。働いている会社・事業場でも、今後いつ大きな事故が起こるかわからず、不安を感じていませんか?事故を減らしていくためには、安全衛生管理を徹底する必要があります。
安全衛生管理を徹底するうえでは、安全衛生管理者が必要ですが、実際は安全衛生管理者という役職・資格はないため、この記事では「衛生管理者」について説明していきます。この記事を読んで、衛生管理者は具体的にどのようなことを行うのかを確認していきましょう。
衛生管理者とは労働環境や現場の衛生全般を管理する人
衛生管理者について知るために、これから次の3点について解説していきます。
- 衛生管理者は日本独自の制度
- 常時50人以上の労働者がいる場合、衛生管理者が必要
- 衛生管理者を置かなかった場合の罰則について
それでは、一つずつ詳細を見ていきましょう。
衛生管理者は日本独自の制度
衛生管理者は、「衛生に係る技術的なこと全般を管理する者」のことで、国家資格です。医師だけで衛生管理の業務を行うことは難しいとされたことから、日本独自の制度として、指導員のような立場となる「衛生管理者」の選任が義務付けられました。
1947年制定の労働基準法、旧・労働安全衛生規則に「衛生管理者」の選任の義務付けが規定されてからは、何度も改定が繰り返されており、現在に至ります。
常時50人以上の労働者がいる場合、衛生管理者が必要
衛生管理者が必要になるのは、一定規模以上の事業場です。事業場の規模は労働者の数で大きさを表しますが、規模の大きさにより必要な衛生管理者の数が変わります。
事業場の規模と、専任する衛生管理者の数は以下の通りです。
常時50人以上の労働者がいる事業場には、衛生管理者が必要になります。ちなみに、10人以上50人未満の事業場には「安全衛生推進者」等の選任が必要です。安全衛生推進者とは、「安全と衛生に係る事項を統括管理する業務の担当者」のことをいいます。
ここで注意したいことは、同じ会社でも支社、支店、店舗ごとに1事業場と数える点です。また同じ会社内で、別の支社の衛生管理者を掛け持ちするなどの兼任は認められません。ただし、2人以上の衛生管理者を選任する場合、衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいる際は、内1人は非専属でも問題ありません。
衛生管理者を置かなかった場合の罰則
一定規模以上の事業場になると、衛生管理者を置くことが法律で義務付けられています。専任義務があるのに衛生管理者を置かなかった場合は、50万円以下の罰金を科せられるので注意しましょう。
衛生管理者を置かなかった場合の罰則については、「労働安全衛生法第120条」に記載されています。例えば、労働者が増えて50人以上になった場合は、衛生管理者の専任義務が発生した日から14日以内に、事業場がある所轄の労働基準監督署へ報告しなければなりません。
衛生管理者の業務内容
衛生管理者は、主に次のような内容の業務を行います。
- 労働者の健康管理
- 作業環境の管理
- 労働衛生教育の実施
- 健康保持増進措置 など
【労働者の健康管理】 労働者の健康管理として行う職務の1つが、健康診断の受診率を向上させることです。未受診者を減らすために、健康診断の日程調整などを行います。
【作業環境の管理】 労働者が安全で衛生的な環境の中で働けるように、作業環境の管理の業務も重要です。例えば、照明の明るさや室温、湿度、換気、騒音、振動、有害な化学物質などの調査を行います。
【労働衛生教育の実施】 労働安全衛生法により、一定の危険有害業務で働く労働者には、資格取得や特別教育の実施が義務付けられています。労働者に衛生教育を行うことが、労働災害や職業性の病気にかかることを避けることにつながります。
【健康保持増進措置】 労働者の心身の健康を保持・増進するために、事業場の全ての労働者を対象に、心身の健康教育や予防対策に取り組みます。また、労働者の健康保持促進措置をすることで、労働生産性の向上にもつながります。
衛生管理者は、少なくとも週に1回は作業場などを巡回し、設備や作業方法、衛生状態をチェックします。その結果、問題があると判断した場合、すぐに労働者の健康障害を防止するための措置を行わなければなりません。また事業者は、衛生管理者に上記のような内容を行うよう、権限を与える必要があります。
安全衛生管理の活動で事故を減らすための施策
安全衛生管理の活動で事故を減らすために、次のような施策を行います。
1. 労働安全教育プログラムの実施 2. 安全衛生管理体制の整備 3. 危険防止ルールや管理システムの確立 4. 風通しの良い環境をつくるコミュニケーション 5. 定期健康診断の実施
具体的にどのようなことを行うのかを解説していきます。
1. 労働安全教育プログラムの実施
労働安全教育プログラムとは、労働災害の防止を図ることを目的に、労働者に向けて教育を行うことをいいます。教育内容は、事業場で使用している機械や装置の扱い方、衛生管理、安全措置、防護服や作業服についてなど、安全教育全般です。これらは、研修やセミナー、ポスターなどさまざまな方法で教育を行います。
ただし、社内教育はマンネリ化しがちで緊張感に欠けるため、効果が薄いと感じることが多いようです。また、外国人を雇っている場合は、言葉の壁の問題もあります。さらに、安全教育をしっかり行いたくても、人手や時間が足りずに、満足できる内容で教育が行えないことも多いです。
事故発生を防ぐためには安全教育はとても重要なので、「効果が薄い」「満足できる教育が行えない」とお悩みなら、「ZIKOZERO( ジコゼロ )」の導入しましょう。
ZIKOZEROは、「株式会社クオリクス」が提供する安全教育コンテンツ配信サービスで、実際に発生したさまざまな労災事故を、CGで再現し配信しています。認知心理学者が監修しているため、学習効果のある映像構成となっており、リスクを予測しながら作業する力を養うことが可能です。安全教育の際に、この映像を労働者や管理者へ見せることで、危険意識を高めて事故防止につなげることができます。
【ZIKOZEROの主な特徴・利用するメリット】
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- 初心者・ベテラン・管理者の3つのコースがあり、各労働者の業務や経験に合わせた映像を選べる
- 1つのIDで5ユーザーまで利用可能(1ID・5ユーザーで月額10万円)、2IDの契約なら最大同時接続10ユーザーも可能
- 月額低額性なので、好きなだけ視聴できる
- 日・英・中の多言語版なので外国人労働者にも対応できる
2. 安全衛生管理体制の整備
安全衛生管理体制の整備として行うことは、事業場の規模や事業内容によります。次の3つの中から、行うべきことがないかチェックしましょう。
- 安全衛生推進者または衛生推進者の選任
- 作業主任者を選任
- 従業員・労働者の意見や情報を共有
労働者数が10人以上50人未満の小規模な事業場では、衛生管理者の選任が義務付けられていません。そのため、「安全衛生推進者または衛生推進者」の選任をします。安全衛生推進者または衛生推進者には、危険防止対策や教育・健康管理などの安全衛生業務を担当させましょう。
危険な作業や有害な作業を行う場合は、「作業主任者」を選任します。そして、作業主任者に作業員を指揮させます。「従業員・労働者の意見や情報を共有」して、安全衛生対策の方針を決めましょう。
3. 危険防止ルールや管理システムの確立
まずは作業するにあたり、危険性や有害性を見つけます。そして、これらをなくすための対処法を考えて、危険防止ルールを作り、管理システムを確立させます。
以下は、危険防止ルールの例です。
- 機械設備を使用した作業では、機械の動作範囲に身体が当たることがないように、柵や覆いなどを設置
- 火災や爆発の恐れがある場合、換気を行い火気を使用ししない
以下は、管理システムの例です。
- まずは、作業や事務など業務全般に関して、規定やマニュアルを作ることを標準化する
- 規定・マニュアル等を評価する→問題点を分析する→改善案を練る→職場の意見も聞き、改善策を講じて方向を決定する
4. 風通しの良い環境をつくるコミュニケーション
事業主、管理職、正社員、パートタイマーなど、雇用形態に関係なく声をかけ合えるような、風通しの良い職場環境をつくることは大切です。そうすることで情報も行き届き、教育や日々の活動など、すべてがうまくいきます。
風通しの良い職場環境を作るためには、職場全体でコミュニケーションを取り合うことが重要です。部下が上司に対して緊張してしまったり、コミュニケーションが苦手で上手くいかなかったりする場合は、次のような方法をお試しください。
【コミュニケーション方法の例】
- 出勤時と退勤時には必ず挨拶をする習慣をつける
- 朝礼の際に、持ちまわりで昨日の出来事などの発言をするルールをつくる
- 管理者から声をかける
- 管理者による個別面談を行う
- 安全パトロールをする際に、パトロールをするものが声をかけたり指摘したりする
5. 定期健康診断の実施
従業員の健康を最優先するため、年1回の定期健康診断を行います。また、従業員に有害な業務に就かせる場合は、6カ月に1回特殊健康診断を行わなくてはなりません。
【特殊健康診断の実施の対象となる業務】
- 高気圧業務
- 放射線業務
- 特定化学物質業務
- 石綿業務
- 鉛業務
- 四アルキル鉛業務
- 有機溶剤業務
特殊健康診断とは、労働安全衛生法に定められている健康診断です。労働衛生対策上、有害であるとされている業務に就く者を対象にしています。
安全衛生管理の活動を進める流れ
安全衛生管理の活動を進める流れは、次の通りです。
1. 事業場全体の環境を整える 2. 安全衛生管理のために委員会を開き、体制をつくる 3. 安全衛生管理の仕組みづくり 4. 安全衛生管理の実施
順に詳細を解説していきます。
1. 事業場全体の環境を整える
事業場全体の環境を整えるために、以下のことを行います。
- 基本方針の策定
- 基本方針の周知
- 事業場のトップが率先した行動をとる
【基本方針の周知・基本方針の策定】
労働災害を防止するためには、事業場が一丸となって取り組むことが重要です。そのためには、まず事業場の安全衛生の基本方針を策定します。
基本方針が決まったら、正社員もパートタイマーも含め、すべての従業員に伝えます。朝礼や掲示板への掲示や、研修・教育などを利用して周知させ、すべての従業員が常に基本方針を意識して行動できるようにしましょう。
【事業場のトップが率先した行動をとる】
社長や工場長など、事業場のトップが安全衛生管理の必要性を認識し、率先した行動をとらなければ、研修や教育をしたとしても従業員には伝わりません。トップが現場に出向いて指導をするなどして、従業員に直接安全衛生の重要性を説明しましょう。
2. 安全衛生管理のために委員会を設置して体制をつくる
委員会を設置することで、事業者と労働者が意見を交わすことができる環境をつくります。委員会では、安全衛生の中心となる担当者を決めましょう。
委員会の役割は次の通りです。
- 安全衛生に関するルールをつくる
- 事業場や職場ごとに状況を確認する
- 安全衛生管理の計画をつくる
- 安全衛生管理の計画を実施し、その状況を確認する
3. 安全衛生管理の仕組みづくり
安全衛生管理の仕組みづくりは、主に次のようなことを行います。
- 安全衛生管理のルールをつくる
- 安全衛生管理の教育を実施
これらは、安全衛生水準の向上を図るために重要なことです。安全衛生管理のルールを作ったら、そのルールに従い安全衛生管理の教育を行いましょう。
4. 安全衛生管理の実施
安全衛生管理を実施したら、それで終わりではありません。活動の進歩状況を確認し、良い点と悪い点を見つけ出しましょう。そして、次に行うアクションなども確認して、振り返りながら進めることが大切です。
安全衛生管理の良い取り組み事例
厚生労働省から「安全衛生優良企業の取組事例」として取り上げられている事例から、いくつか選定して紹介します。
新人作業員の見える化を実施している事例
大分県大分市にある「有限会社ファン工業」は、特に気をつけなければならない新人作業員に、黄色帽子を着用させる「新人作業員の見える化」の取り組みが評価されています。
有限会社ファン工業は、他にも安全衛生管理に関するさまざまな取り組みが評価されているので、以下の内容をぜひ参考にしてください。
- 新人作業員は黄色帽子を着用し、不慣れであることを周知させる
- 基本ルール、5Sルール、作業ルールを記載したルールブックを作成し、雇入れ教育時に各自で製本して基本ルールを守ることを徹底する
- 安全目標を全従業員で宣言する(各作業場に掲示)
- 事故が想定される設備には、すべて保護カバーを設置する
- 改善提案による褒賞制度を設ける
イベントとして年1回安全大会を実施している事例
神奈川県横浜市にある「有限会社鈴木工業」は、定期的に安全大会や勉強会、安全衛生教育、安全パトロールを実施していることが評価されています。他にも、さまざまな安全衛生管理に関する取り組みを行っています。
- 年1回の安全大会の実施
- 年2回の外部講師による勉強会
- 年2回の中堅幹部向けの安全衛生教育
- 月3回以上の幹部クラスによる安全パトロール車での現場パトロールの実施
- 全車にドライブレコーダーを搭載
- 立ち入り禁止の明示、埋設物注意の明示などの看板を設置し、現場内の「見える化」を図る
毎年コンクールに応募して、安全意識を高めている事例
福島県福島市にある「寿建設株式会社」は、毎年安全コンクールに応募して、安全意識を高めていることが評価されています。他に行っている取り組みも評価が高いです。
- 厚生労働省の安全プロジェクト「見える安全コンクール」に毎年応募
- インターネットを利用して、全従業員で各現場の取り組み事例の情報を共有する
- インターネット配信によるデジタルフォトフレームを利用し、安全衛生の情報を共有する
- 毎月本社幹部による「幹部パトロール」を実施し、全作業所でミニ安全大会を開催する
- 作業中の事故防止のため、「ゆびさし」を習慣化する
衛生管理者になるための資格取得について
衛生管理者には第一種と第二種とありますが、どちらも国家資格で、試験を受けて合格することで資格を得ることができます。なお、保健師および薬剤師は、衛生管理者としての免許を受けることができるので例外です。これから「受験資格」「資格の種類」「合格基準」について解説していきます。
衛生管理者の受験資格
衛生管理者試験は、全国に7カ所ある「安全衛生技術センター」で定期的に行われています。ただし、受験資格が設けられているため、衛生管理者の試験は誰でも受けけられるものではありません。受験資格は以下のような内容となっており、少々複雑です。
- 大学(短期大学を含む)または高等専門学校を卒業し、1年以上労働衛生の実務に従事した者
- 高等学校または中等教育学校を卒業し、3年以上労働衛生の実務に従事した者
- 10年以上労働衛生の実務に従事したもの
衛生管理者の資格は3種類
衛生管理者の資格は、次の3種類に分けられます。
- 第一種衛生管理者
- 第二種衛生管理者
- 衛生工学衛生管理者
これらは、選任できる場所によって資格が変わります。それぞれの資格と選任できる場所(業種)を、以下で表にまとめたので参考にしてください。
「○」は選任可能、「×」は選任不可、「△」は単独での選任不可ですが、衛生工学衛生管理者が他に選任されている場合のみ選任可能です。
試験の合格基準と合格率
衛生管理者の試験は合格定員制ではなく、合格ラインの得点が定められています。合格ラインは、各科目の得点が40%以上で、かつその合計が60%以上であることで、このラインを満たせば合格になります。
【平成30年度の合格率】
- 第一種衛生管理者試験 44.2%(受験者数67,080人 合格者数29,631人)
- 第二種衛生管理者試験 52.4%(受験者数32,985人 合格者数17,271人)
平成30年度の合格率から分析すると、誰でも簡単に受かるということではないようです。ただし、第一種も第二種も合格率は50%前後なので、狭き門というほどでもありません。
衛生管理者の活動を理解して、安全な作業を心がけよう!
衛生管理者の活動の軸にあるのは、労働者の安全と健康を優先することです。また、事故を未然に防ぐために、労働安全教育プログラムの実施、危険防止ルールや管理システムの確立、職場全体で風通しの良い環境を作るなど、さまざまなアプローチで衛生管理の業務を行います。
時間の都合や人手不足などで、衛生管理者の業務を行うことが難しいと感じたら、安全教育コンテンツ配信サービスの「ZIKOZERO」を導入することもおすすめです。 また、厚生労働省のサイトで閲覧できる「安全衛生優良企業の取組事例」も参考になるので、ぜひチェックしてみてください。