労働災害での死亡事故の事例と対策方法!保険や賠償金についても解説
労働災害による死亡事故の事例とその対策法や、残された遺族を支える保険や賠償金についても分かりやすく解説します。痛ましい事故はいつ何時起こるか分かりません。最悪の結果を招かないためにも、会社が一丸となって安全対策を講じることが不可欠です。
不幸なことに、毎年どこかで労働災害による死亡事故は起きています。
死亡事故は、残された家族の生活にも大きな不安を与えるに違いありません。
万が一、労働中に死亡事故が起きてしまった場合、個人や会社はどのような対応を取ればよいのか、最悪の事態が起きる前から、しっかりと知識を深めておくことが大切です。
ここでは、不幸な事故を減らすヒントになる労働災害による過去の死亡事故の事例と対策方法、死亡事故の際、遺族が受け取れる保険や賠償金についても分かりやすく解説します。
【平成30年】労働災害の死亡事故の状況
厚生労働省が公表した「平成30年度の労働災害の発生状況」によると、労働災害による死亡者数は、前年度と比べると7.1%減少し、過去最少となっています。
しかし、休業4日以上の死傷者数は前年比5.7%増で、3年連続して増加傾向です。製造業は「挟まれ・巻き込まれ」「墜落・転落」が前年と同様に多く発生しており、死傷者数は前年度を上回りました。
労働災害での死亡事故の5つの事例
労働災害を未然に防ぐためには、安全教育はもちろん、過去の労働災害から学ぶことも有効です。ここでは、実際に起こった労働災害の死亡事故の事例から、事故が起きた原因やその対策法を見てみましょう。
大型ソーラーパネル工事中に高さ13mからの落下
作業員4名で、大型ソーラーパネル裏側の塗装前準備中、1人の作業員が、高さ13mの仮設足場から落下し被災しました。
被災者は仮設足場とソーラーパネルの間の開口部で、養生作業を実施していましたが、本来、足を載せてはならない5cm幅の鉄骨・根がらみから、足を滑らせて墜落し、脳挫傷のため死亡したものです。また、事故当時、落下防止網や安全帯等の、安全措置は講じていませんでした。
【原因】
- 落下防止網を張っていなかった
- 墜落防止措置を取っていなかった
- 本来足を載せてはならない鉄骨で養生作業をしていた
【対策】
- 落下防止網を張る
- 安全帯等の墜落防止策措置を取る
- 作業床を設置し無理な姿勢での作業をなくす
下水用マンホール洗浄中に脇見運転の一般乗用車にはねられる
作業員2名で、下水用マンホールの清掃・点検作業中に事故は起きました。1人の作業員が、道路上で高圧洗浄スプレーガンを使用し、マンホールの中を洗浄していたところ、わき見運転の一般乗用車にはねられ死亡したものです。作業中、交通誘導者は配置されていないうえ、標識板も作業現場から距離を取って配置していませんでした。
【原因】
- 交通誘導者を配置していなかった
- 作業場所と標識板との間隔が狭かった
- 保護帽を着用させていなかった
【対策】
- 労働者に対し作業標準の指導・教育を徹底する
- 公道で作業する場合は、交通誘導者を配置する
- 標識板は作業場所から距離を取って設置する
- 保護帽を着用させる
エレベーター内の内装作業中に急性有機溶剤中毒で死亡
被災者2名は、エレベーター内で塩ビシートの剥離作業中に被災しました。ジクロロメタンを主成分とする剥離剤を塩ビシートに塗布し、30分程度待って軟化させ剥がすのが主な作業です。
通常はエレベーターの外から声をかけて、安全確認を行なう手順でしたが、ビル内店舗が一部営業中であったため、ドアを閉めた状態で作業をしていました。
連絡が取れず不審に思った別の作業員が、エレベーター内で仰向けに倒れた2名を発見しましたが、急性有機溶剤中毒で2人とも死亡が確認されたものです。
2名は有機ガス用防毒マスク・簡易防じんマスクを装着していましたが、有機ガス用防毒マスクは、すでに破過しており、送排風機等による全体換気も行っていませんでした。
【原因】
- 全体換気を行う予定だったにもかかわらず、送排風機を使用していなかった
- 有効な吸収缶付きの防毒マスクを着用していなかった
- 作業員2人とも窓を閉じた状態で有機溶剤作業を行った
【対策】
- 剥離剤は有害性の低いものを使用する
- 有効な防毒マスク・送気マスクを使用し、吸収缶は破過時間の管理を適切に行う
- 送排風機等による全体換気を行う
- 作業員1人はエレベーター外で待機し安全状況を確認する
訪問介護中に足を滑らせて転倒し後頭部を打撲し死亡
被災者は、訪問介護中に、利用者宅の台所で昼食を調理している最中、何らかの原因により、キッチンマットの上で転倒し後頭部を強く打ちました。
しばらくして倒れていた所を利用者に発見され、意識のあった被災者は、しばらく安静にしたのち一旦帰宅しましたが、自宅で頭痛と足のしびれを訴え病院に緊急搬送されました。
しかし、その後、意識不明となり死亡したものです。
【原因】
- 目撃者はいないが、頭蓋内損傷が死因とされることや現場の状況から、調理中キッチンマット上でバランスを崩し後方に転倒したと思われる
【対策】
- 定期的な職場巡視で危険箇所・不安全行動を洗い出し、リスク低減措置を講じる
- 滑りにくい履物を着用する
- 転倒災害防止のための、安全教育など労働者の意識啓発を図る
塩酸タンクの経年劣化した天板に乗った作業員が落下
この被災事故は、被災者が、屋外に設置してある塩酸タンク上部で作業中、天板上を移動している最中に起こりました。突然天板が破れて作業者がタンク内に落下したため、落下を目撃した別の作業員が救出しようとしたところ、同じくタンク内に落下したものです。
塩酸を希釈しながら内容物を排出するため、タンク内の内容物はすぐに抜くことができず、事故発生時から2時間後に救出された2名の被災者は、すでに死亡していました。
【原因】
- 特定化学施設として管理していなかった
- 内外部点検を1度も実施せず、天板の劣化状況を把握していなかった
- 梯子にストッパーや立ち入り禁止の表示がなかった
- 作業前の打ち合わせや、事前の危険有害性調査も実施されなかった
【対策】
- 定期自主検査をおこない、異常がある場合は補修を講じる
- 墜落の恐れや強度確認ができない場合は、容易に立ち入れない措置を取る
- 工事内容の危険有害性について評価を実施し、事前に文書等で請負業者に交付する
- 具体的な作業方法や必要な設備等について、事前に打ち合わせをし周知徹底を図る
労働災害の防止対策はまず安全教育を実施する
職場で死亡災害を起こさないためには、企業側が率先して安全教育を実施することが必要です。それにより、社員一人ひとりの安全に対する意識が改善され、事故を引き起こす不安全行為を減らすことができます。
【安全教育の内容】
- 機械、原材料、保護具などの取扱方法
- 作業手順
- 事故時における応急処置
また、安全教育のツールとして、安全教育コンテンツ配信サービス「ZIKOZERO」がおすすめです。 CG映像で事故を疑似体験することにより、労災を未然に防ぐ効果が期待できます。
認知心理学者が監修したリアルな再現映像で、事故の恐怖心を体感し、危険を察知する力を向上させるのが特徴で、映像は、コースごと(初心者・ベテラン・管理者)に分かれています。
また、外現場で働く従業員でも、常時、安全教育が受けられるよう、PC以外にもスマートフォンやタブレットでの視聴も可能です。
コンテンツは見放題なので、朝礼時の安全教育確認にも適しているうえ、外国人労働者の受け入れ拡大にともない、現在、日本語、英語、中国語の3言語に対応していてとても便利です。
労働災害で死亡事故が発生した場合の保険について
「労災保険」は、国が企業側に納付を義務づけた公的な保険ですが、労働災害で死亡事故が起きた場合、その遺族は「遺族補償給付」を受け取ることができます。
労災保険の請求は故人の過失に関わらず受給できる
労働者が、業務中または通勤中に死亡した場合、遺族は労働保険から「遺族補償給付(労務中の事故)」、もしくは「遺族給付(通勤中の事故)」を受領することができます。
労災保険は、損害賠償請求とは異なり保険金の請求のため、故人の過失に関わらず保険金を受領することが可能です。また、葬祭を行った際の葬祭料(葬祭納付)も、給付金として支給されます。
労災の死亡事故によって受給できる遺族補償給付について
労災の死亡事故によって受給できる遺族補償給付には、「遺族補償年金」と「遺族補償一時金」の2種類がありますが、「遺族補償年金」の場合、受け取れる人が限定される点に注意しましょう。
受給資格者に当たるのは、被災者の配偶者・子ども・孫・祖父母・兄弟姉妹ですが、配偶者以外の遺族に関しては、一定の年齢制限等が設けられています。
遺族補償年金は、次に紹介する一覧の「最も順位の高い人」が受給可能です。
【遺族補償の受給資格者の順位】
- 妻、60歳以上または一定障害の夫
- 18歳に達する日以降の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
- 60歳以上か一定障害の父母
- 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
- 60歳以上か一定障害の祖父母
- 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定 障害の兄弟姉妹
- 55歳以上60歳未満の夫
- 55歳以上60歳未満の父母
- 55歳以上60歳未満の祖父母
- 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
なお、一定の障害とは、障害等級代5級以上の身体障害を指します。配偶者の場合、婚姻届けを出していないものの、事実上、婚姻関係にある人も含まれます。
また遺族補償年金は、遺族数等に応じて「遺族(補償)年金」「遺族特別支給金(一時金)」「遺族特別年金」が支給され、船員については、労災保険給付に加えて、船員保険から給付される場合もあります。
労働災害による死亡事故の賠償金は主に2つ
労働災害による死亡事故の賠償金は、主に「慰謝料」と「逸失利益」の2つがあります。
「慰謝料」とは、被害を被った精神的苦痛に対して支払われる賠償金で、会社が安全対策を怠って発生した事故については、慰謝料を請求することが可能です。
「逸失利益」とは、被災者が元気で働いていた場合に「得られたであろう収入」のことを言います。逸失利益は、利益の確定が難しいため、労働保険では全額補償されないこともあります。
また、会社への損害賠償請求が認められるからと言って、労災保険と損害賠償金の二重取りは出来ないので注意しましょう。
この二重取りを防ぐため、会社の損害賠償金から労災保険で支給された金額が差し引かれ、最終的な賠償金額を決定する利益調整が行われています。
労働災害の死亡事故を防ぐ対策を実施しよう!
労働災害による死亡事故は年々減ってきてはいるものの、日本では毎年1,000人近くの人が亡くなっています。まだ死亡事故は起きていなくても、対策を講じなければその危険性は高まるでしょう。
労働災害の死亡事故を防ぐためには、会社ぐるみで労働安全に対する意識を深め、実際に安全対策を実施がすることが不可欠です。企業側と労働者が一体となって安全対策に取り組みましょう。